シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

【ホラーテラー】首あり地蔵【なつのさんシリーズ3】

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • 0
過去の人気記事

「なあ、お前ら『首あり地蔵』って知ってるか?」
数年前の話になる。僕らは当時大学三年生だった。季節は夏。大学の食堂で三人、昼飯を食べていた時だ。
怪談好きなKが、雑談のふとした合間に話しだしたのが、そもそもの始まりだった。
「首あり地蔵ってお前、そりゃ普通のお地蔵様だろ」
僕の隣に座って味噌汁を飲んでいたSが、馬鹿にしたように言う。
KとSと僕。Kはカレーの大盛りで、Sはシャケ定食で、僕は醤油ラーメン。いつものメニュー、いつものメンバーだった。
でも確かに『首なし地蔵』だったならば、はっきりとは思い出せないが、何かの怪談話で聞いたことがあるかもしれない。
話のネタにもなるだろう。
しかし、Kは『首あり地蔵』と言ったのだ。
Sの言う通り、それは首のある普通のお地蔵様だ。
「ちげぇんだよ。あのな、その地蔵の周りには、もう五体地蔵があってな。
 『首あり地蔵』の一体以外は、全部頭がねえんだってよ」
なるほど。だから『首あり地蔵』か。
僕はその様子を想像してみた。六体の地蔵の内、一体だけにしか首が無い。
「ねえ、何でそうなってんの?」
「それがな、その一体だけ首のある地蔵が、他の地蔵の首をチョンパしたっつう話なんだよ。これが」
そう言ってKは舌を出し、スプーンで自分の首を掻っ切る仕草をした。
「でも、そんなことして、地蔵に何の得があるんだよ」
「さあ?知らねえよ。お供えモン独り占めしたかったとかじゃね?」
Kがそう答えると、Sが、ごほっごほっ、と咳をした。
それからポケットティッシュを取り出し口元を拭うと、
「……馬鹿野郎。喉につかえたじゃねーか」
「何だよ、俺のせいかよ」
不満げなKに「お前のせいだよ」とSが言う。
僕はというと、その地蔵に少し興味を抱き始めていた。
「で、Kさあ。その首あり地蔵については、他になんかないの?」
「ああ、あるぞ。なんてったって、『首あり地蔵』は人を襲う」
その瞬間、再びSが咳き込んだ。
「夜な夜な動き出してさ、人の首を刈り取って来るらしいぜ?
 『要らん首無いか……要らん首無いか』ってぶつぶつ言いながら。寺の回りを徘徊してんだとよ」
「……もうやめてくれ、今の俺は呼吸困難だ」
Sは咳き込んだせいか涙目になっていた。
「何だよS。ロマンがねーな。俺の話が信じられねーのかよ」
「何がロマンだボケ。K、お前、すぐにでもその地蔵に謝ってこい」
「それだって!」とKが大声を出したので、
僕は驚いた拍子にむせたら、ラーメンの切れ端が鼻から出てきた。久しぶりだこんなこと。
「今日の夜、行こうぜ?確かめるんだよ、俺たちで。噂が嘘なら、何ぼでも謝ってやるからよ」とKが言う。
Sは呆れたように天井を見上げた。また始まった、と思ってるんだろう。
Kはそういうスポットに行くことを好む、所謂肝試し好きなのだ。
今までだって、Kが発案し、僕が賛成し、Sが引っ張られる形で、そういういわく付きの場所に足を運んだことが何度もある。
「んじゃあ、今日の夜は、首あり地蔵で肝試しってことで、決まりな」
Kが強引に話を進める。
Sが救いを求めるように僕の方を見た。僕はラーメンをすすりながら、Sに向けてニンマリ笑って見せる。
Sは半笑いのまま力なく項垂れ、黙って首を横に振った。
「……というか、その地蔵近くにあるのかよ」
「おう。○○寺ってとこ」
その名前を聞いた時、うなだれていたSの首が少し上がり、眉毛がピクリと動いた。
そうしてから、隣に居た僕くらいにしか聞こえない程の声で、
「そうか。○○寺か……」と呟いた。
僕は一体何だろうと思ったのだが、
あいにくその時は口の中一杯にラーメンが詰まっていたので、それを聞くことは出来なかった。
その後は聞くタイミングを掴めぬまま、あれよあれよと言う間に具体的な集合場所と時間が決定した。
こういうときのKの手際の良さはすさまじいものがある。但し、普段はまるで発揮されないのが痛いところだ。

こうして僕らはその日、○○寺の首あり地蔵の元へと足を運ぶことになったのだ。

夜中、僕らはそれぞれ個別に、○○寺がある山のふもとで集合ということになっていた。
○○寺は僕ら住む街を一望できる小高い山のてっぺんに、展望台と隣接する形で建っている。
寺までは数百段の石段が続いており、僕は知らなかったのだが、目的の地蔵はその道中にあるそうだ。

集合時間は十一時。時間を守って来たのは僕だけだった。
十五分待って、バイトで遅れたと言うKと、寝坊したと言うSがほぼ同時にやって来た。
熱帯夜だと言う蒸し暑い夏の夜、僕らは三人は懐中電灯を片手に汗だくになりながら、地蔵があるという場所に向かった。
特に僕は日ごろの運動不足がたたってか、
前を行く二人を追いかける形で、ひーこらひーこら言いながら石段を上っていた。

山の中腹を少し過ぎた頃だっただろうか、
「おーい、早く来いよ。あったぞー」というKの声が、大分上から響いてきた。
僕が二人に追いつくと、そこは石段の脇が休憩のためのちょっとした広場になっており、
地蔵はその広場の端に六体、横一列に並んでいた。
僕は乱れた息を整えてから、地蔵をライトで照らす。
確かに、僕の腰よりちょっと背の低い地蔵たちは、右から二番目の一体を除いて、残りは全部首が無い。
「これで、一つはっきりしたな。少なくとも、この地蔵は夜な夜な徘徊はしていない」
SがKに向けて、からかい半分の口調で言う。
「ごめーんちゃい!」
「くたばれ」
漫才コンビは今日も冴えている。
「っていうか何だ何だー。つまんねーな。夜は地蔵さん、鎌でも持ってんのかと思って期待してたのによー」
そりゃどこの死神だ、と思わず僕も突っ込みそうになった。
「でもよ、ホントに他の地蔵は首がねーんだな」
「何、K。お前ここ来たこと無かったの?」
今日の話しぶりからして、僕はKがここに何度も来たことがあるものだと思っていた。
「いんや。噂で聞いてただけ、面白そーだからさ。見に来てーなーとは思ってたけどよ。ちょっと拍子抜けだなー」
「……この地蔵はな、正式には『撫で地蔵』っつうんだよ」
ふと、Sが呟くように言った。
「なんだよ。お前この地蔵に詳しいの?」
「ん、ちょっとな。見ろ、この地蔵、頭テカってるだろ」
Sが懐中電灯の光で地蔵の頭を照らす。
そう言われれば、この地蔵の古ぼけた身体に対して、頭だけは比較的小奇麗だった。
「触ってみりゃもっと良く分かるんだけどな。
 元々願掛けしながら撫でると、その願いが叶うって言われの地蔵だから、撫でられすぎてそうなったんだ」
そうなのかと思った僕は、そっと首あり地蔵のつるつる頭を撫でてみた。
何だかボーリングの玉を撫でている感じだ。撫で心地は中々いい。
「今でも、知ってる人は知ってるんだけどな。昔はもっと有名だったらしいな。○○寺の撫で地蔵って言えばな。
 けど、そのせいなんだよ」
Kも僕もSの話を黙って聞いていた。
何だか昔話を語る様な話しぶりは、普段のSとは少しだけ違っている様な気がしたのだ。
「三十年くらい前の話らしい。六体全部の首だけが盗まれるって事件があった。綺麗に首だけ取られてたんだってよ。
 犯人は分かってない。ただの愉快犯か、それとも、撫で地蔵のご利益を独占したい輩でもいたんだろうな」
「……おいおいおい、ちょっと待てよ。じゃあ、この首は何なんだ」
Kが言う。それは僕も思った。当然の疑問だ。
「職人に頼んで、地蔵の首だけすげ替えたんだとよ」
僕は改めて地蔵を見てみた。言われてみれば、首の辺りに多少のヒビがある様にも見える。
頭だけ小奇麗なのも、人々に撫でられるだけが理由じゃないということか。
「でも、修復したっていっても、首の部分はやっぱり弱くなってたんだろうな。
 それ以降も、皆に撫でられ続けた地蔵の首は、一体ずつ取れていったんだ。二度目は寺の方も直す気が起きなかった。
 ……それにしても、まさに身を呈して民衆を救うか、地蔵の本懐だな」
そこまで聞いて、僕は少し不思議に思った。Sのこの地蔵に関する知識に対してだ。
予め予習してきたにしても、知り過ぎてはいないだろうか。隣の鈍いKだって、そう思ってたに違いない。
そんな僕らの疑問を察したらしく。Sは若干バツが悪そうに頭を掻いた。
「俺が小さい頃はな、まだ二体は残ってたんだよ。首」とSは言った。
「実はな。五体目の首もいだのって、俺なんだ」
意外な展開と言えばそうだったかもしれない。
でもSの語り口からは、そんなに罪の告白だとか、そう言った重々しいものは感じられず、
ただ単に昔の失敗談を語っている様な、そんな口調だった。
「昔、家族とこの寺に来た時にな、地蔵の頭撫でたんだよ。
 願いながら撫でると、その願いが叶うっていう地蔵だろ?俺はひねくれたガキだったから、撫でながら言ったんだ」
「何て言ったんだ?」
Kが訊くと、Sは肩を竦めて、
「もげろ」
「……は?」
「『もげろ!』って叫んだんだ。撫でながら。そしたら、もげた。本当に」
Sの話によると、ごり、と音がして、手前のSの方に地蔵の首が落ちてきたのだそうだ。
その時はまるで地蔵が頷いた様に見えたとSは言った。
「まあ、たまたま俺が撫でた時と、限界が重なっただけだろうけど。
 それでもあの時は本気で驚いた。これがご利益か、とか思ったよ。
 そのあと、上の寺から坊さんが来てさ。すげえ怒られたな」
と言いながらSは地蔵の前にしゃがみこみ、その頭に手を置いた。
そうしてゆっくりと地蔵の頭を撫でながら、叫ぶでもなく、呟くでもなく、全く自然にその言葉を口にした。
「こう……、『もげろ』ってな」
ぼり。
鈍い音がした。
次の瞬間には、地蔵の頭はあるべき場所に収まっていなかった。どさり、と地面に重量のある物体が落ちる音。
「うわ」とは僕の声。
Sは手を前に差し出したままの状態で地蔵を見つめていた。
「おおう!マジでもげやがった」
Kが感嘆の声を上げる。
「とまあ……、こんなこともある」
Sはあくまで冷静を保っていた。
Kが落ちた首に近寄って「どーなってんだ?」とつついている。
僕はこの目の前で起きた現象をどうとらえればいいのか、イマイチ判断がつかずにいた。
今日という日の夜、S撫でられ限界を突破してしまったのか。それとも、地蔵がSの願いを聞き入れたのか。

「……帰るか」
ゆっくりとその場に立ち上がりながら、Sが唐突に呟いた。
「え、地蔵は、どうすんのさ?」
「どうにもならん」
「え、ええー……?」
Sは本当にこのまま帰るつもりだった。
かといって僕にもどうすることもできない。
弁償の件が頭をよぎるが、
「触れただけでああだ。風が吹いただけでもげてたよ」と、Sがこちらの心理を見透かしたような発言をする。
しかし、となれば、このまますごすごと帰る以外の選択肢が僕にはない。
帰るか。

こうして首あり地蔵は、首なし地蔵になったのだった。めでたし、めでたし。
とは、いかなかった。
僕とSが戻ろうとしたとき、Kだけはまだ地蔵の首のところに居た。僕らはそれに気付かず、先に帰ろうとしていたのだが。
「……要らん首、無いか?」
声が聞こえた。
振り向くと、Kが先ほど落ちた地蔵の首を両手に抱えて、無表情で立っていた。
「え、何?」
僕が聞き返すと、Kはまた言った。
「要らん首、無いかえ?」
その時のKの様子をどう表現すればいいのか。
そんなハイレベルな冗談を言えるKではないし、それにいつものKで無いことだけは分かった。
「あったら、もらうぞ?」
「え、いや、ってか……」
「おんしの首でも、ええぞ?」
「無い」
答えたのはSだった。
「少なくとも、俺らは要らん首は持ってない」
「……ほうか」
Kが地蔵の首を地面に落した。どずん、と音がした。
その瞬間、Kの体が電気が走ったかのように、びくん、と震えた。
「……あれ……、何?んっ?え?俺、寝てた!?」
Kは先ほどの自分の言動を覚えてないのか。
「知るか。帰るぞ」
Sはそう言って、さっさと広場を抜け、階段を降りようとする。
「え、ちょっ、待てって!何?説明しろよ!」
Sの後を、慌ててKが付いていく。
僕はしばらくその場にとどまって、ぼんやりと地面に落ちた地蔵の首を見つめていた。
不思議と怖いという感情はこれっぽっちも沸いてはこなかった。
地蔵はまだ働くつもりだったのだろうか。人々の願いを叶えるために。
そう言えばさっき地蔵を撫でた時に、僕は何も願いを思い描いてなかった。
僕はふと思いいたって、地蔵の首を持ち上げた。重い。すげー重い。
切断面を確認し、僕は地蔵の首を元通りの位置に置いた。そして撫でた。
「く、くっつけよ~、くっつけよ~」
そっと手を離す。首はまた落ちたりはしなかった。
そろそろと後ずさり、僕は二人を追いかけてその場を後にした。

その後しばらく経って、
「○○寺の地蔵が、首のない地蔵が取り壊されたらしいぞ」とKから聞かされた。
それって何体?とは聞かないことにしておいた。

スポンサーリンク

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする

スポンサーリンク