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【洒落怖】「ここの奥山にな、縁切りの神様があると言われとる。  御力をお借りするか?  ・・・まあ単なる言い伝えだからなぁ。  良くない話も聞いとるし、やらん方がええかもしれんが」

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962: 雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ 2009/04/28(火) 20:00:04 ID:kjG5EA2N0
友人の話。

彼女はかつて、質の悪い男に付きまとわれていた。
結婚まで考えた相手だったが、同棲し始めた途端、暴力を振るうようになったのだ。
別れようと口にすると、その度涙を流して「もう殴らない」と謝ってくるのだが、
しばらく経つと元の木阿弥、いやそれどころか暴力の度合いがどんどん酷くなって
いったのだと。
堪らず、母方の祖父を頼って、山奥の寒村に逃げ込んだという。

祖父は何も聞かずに受け入れてくれたが、彼女の様子に思うところがあったのか、
非常に変わったことを言い出した。

「ここの奥山にな、縁切りの神様があると言われとる。
 御力をお借りするか?
 ・・・まあ単なる言い伝えだからなぁ。
 良くない話も聞いとるし、やらん方がええかもしれんが」

「神様ですって?」
彼女はかなりのリアリストだ。
普段ならそういうモノに頼る気など、欠片も起こさなかったに違いない。
しかしその時はひどく思い詰めていた。
信じてもいない神に縋るくらいに。

詳しい話をせがんだところ、祖父は次のようなことを教えてくれた。

「一人でずっと山の奥、そう、御柱様のおられる所まで行かねばならん。
 縁切りを強く願う者がそこに行くと、一本の変わった大木に出会うと言うんだ。
 枝という枝が至る所で溶け合っているような、異様な外見らしい。
 縁切りを望む者には、すぐにそれとわかると聞くがな。
 御柱様の方から姿を現されるのかもしれん」

963: 雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ 2009/04/28(火) 20:01:29 ID:kjG5EA2N0

一旦口を湿らせてから、祖父は続けた。

「そこで縁切りしたい名を口にしてから、枝を一本だけ切り離すんだ。
 その木はただの木じゃない。
 御柱様、つまり山の神様の化身なんだ。
 そして神様の前に立った人間の、この世におけるすべての縁故が、絡み合った
 枝振りになって現れてるっていうんだよ。
 だから枝を切ってやれば、それに対応する縁が切れるんだと。
 枝を触ると、どこの枝がどの縁に当たるのか、当人にはわかるって話だ。
 だがな、ついうっかり間違って、必要な枝まで切っちまう奴も多いってよ。
 ・・・教えといてなんだが、行かない方がええと思うぞ」

少し悩んでから、彼女は神様にお願いすることに決めた。
一人で山奥の聞いた場所まで踏み込むと、教えられた怪しい祝詞を口にしてから、
辺りを探し始める。

ろくに道も付いていない、昼でも薄暗い山奥の、更に深い森だ。
よくそんな所まで出向く気になったねと私が言うと、彼女は答えた。
「その時はね、それしかないって思い込んでたの。
 お陰で肌が傷だらけになったよ」

“その時の彼女は、何かに憑かれていたのかもしれない”
普段の冷静な彼女を知っている者としては、ついそんなことを考えてしまう。

程なくして、首尾良くその木を見つけたのだという。
祖父に聞いていた通り、パッと見た瞬間に「これが縁切りの木だ」とわかった。
リアリストの彼女には珍しく、なぜかそう確信できた。
理由はわからない。

964: 雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ 2009/04/28(火) 20:06:04 ID:kjG5EA2N0

数え切れない枝と枝が、色んな箇所で溶けてくっ付いているような、異様な外観。
とても抱えきれない太い幹の表面にも、沢山の枝が這って溶け込んでいる。

携えた御神酒を捧げ、あの男の名前を呼んでから、鉈を振り上げた。
しかし男との縁がどの枝であるのか、それがいくら触ってみてもわからない。
「ええい、ままよ」心を決めると、何本か枝をまとめて切ってみた。

「あ」

切った瞬間、何かが自分と関係なくなったことがわかった。
そんな気がした。
果たして一体、何と自分の縁が切れたのか、それはやはりわからなかったが。
やり遂げたという達成感と、得体の知れない不安感を抱えながら、帰途に着いた。

結論から言うと、男との縁はすっぱり切れたのだという。

「うん、もうこれ以上はないって、誰が見ても明らかに切れちゃった。
 詳しくは聞かないで。
 ・・・でもね、私あの時、切っちゃいけないものまで切っちゃったみたい」

そう話してくれながら、彼女はひどく寂しい顔をした。
しかし一体何の縁を切ってしまったのかは、どうしても教えてくれなかった。
ふと気になって問うてみる。

「他の誰かがその神様のことを尋ねてきたら、君はどうアドバイスする?」

「縁を切るのに、神様の力を使っちゃ駄目」

きっぱりとそう言い切られた。
生真面目な顔を見ていると、それ以上この話題は続けられなかった。

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